アトランティス人の特徴は、原典ではこう書かれています
アトランティス人の特徴を書き残した資料は、世界にたった2本しかありません。プラトンの対話篇『ティマイオス』と『クリティアス』です。そこに書かれた特徴は、姿かたちではなく性格でした。金髪も、超能力も、第三の目も、1文字も出てきません※1※2。
「アトランティス人の特徴」で検索すると、背が高い、金髪で青い目、テレパシーが使える、額に第三の目がある——だいたいこのあたりが並びます。読んでいて楽しい話です。ただ、その一つひとつがいつ・誰が言い出したのかまで書いてあるページは、ほとんど見当たりません。
ここから先は、原典にあるものと、後から足されたものを、はっきり分けて並べていきます。先に結論だけ書いておきました。
- 原典にある特徴……法をよく守り、富を重荷と考え、贅沢に酔わなかった。海の神ポセイドンの血を引く10人の王が治めた
- 原典に無い特徴……金髪碧眼、巨人、テレパシー、第三の目、クリスタル文明
- 後から足された時期……1882年から1930年代にかけて、ヨーロッパとアメリカのオカルト作家が順番に付け足した※3※4
プラトンがこれを書いたのは紀元前360年ごろ。いまから約2400年前です。そして彼は、アトランティスが沈んだのを「それよりさらに9000年前」と書きました※2。つまり原典の時点ですでに、伝聞の伝聞でした。
アトランティス人の特徴① 富を「重荷」と考えた人たちが、強欲に変わるまで
プラトンがいちばん字数を使って書いたアトランティス人の特徴は、性格です。彼らは徳以外のものを軽んじ、黄金や財産を「重荷」と感じ、豊かさに自制を失わなかった。ところが、その性質は途中で失われます※1。
『クリティアス』の原文を、意味が変わらない範囲でかみ砕くと、こうなります。
- 神の性質が残っているあいだ、彼らは法に従い、自分たちを生んだ神を敬った
- 気高い精神を持ち、穏やかさと知恵を併せ持って互いに接した
- いま手にしている暮らしぶりに執着せず、黄金や財産を重荷のように思った
- 贅沢に酔わず、富によって自制を失うこともなかった
ここまでが前半。後半で、話がひっくり返ります。
「神の分け前が薄まり、人間の性質が優勢になったとき、彼らは自分の幸運に耐えられなくなった」※1。見る目のある者には、彼らがみるみる品位を落としていくのが見えた。けれど見る目のない者には、いちばん強欲になっていたその時期こそ、彼らが最も輝いて見えた——プラトンはそう書いています。
ここが、この物語のいちばん怖いところでした。滅びの原因を、外から来た敵にも、天変地異にも置いていない。豊かになったこと自体に置いたのです。そして最高神ゼウスが罰を与えようと決め、話しはじめたところで、『クリティアス』の文章は途中で切れています。続きは書かれませんでした※3。
つまり、アトランティス人の特徴としていちばん確かなのは、「豊かさに耐えられなかった人たち」という一点です。姿かたちの話ではありません。
アトランティス人の特徴② 海の神の血を引く、10人の王が治めた
アトランティス人の血筋も、原典にはっきり書いてあります。海の神ポセイドンが、人間の娘クレイトーと結ばれ、5組10人の双子の男子をもうけた。その長男アトラスが島全体の王になり、島の名も、大西洋(アトランティック)の名も、この王から取られました※1。
10人の王がそれぞれの領地を持ち、島の中央にあるポセイドン神殿に集まって合議しました。この集まり方が、なかなか凝っています。
- 集合するのは5年ごとと6年ごとを交互に。奇数と偶数に等しく敬意を払うため※1
- 神殿の敷地には牛が放し飼いにされ、10人の王は武器を持たず、棒と縄だけで牛を狩った
- 捕らえた牛の喉を、オリハルコンの柱の上で切る。血が、柱に刻まれた法文の上に落ちる
- その柱には、初代の王たちが刻んだポセイドンの掟が記されていた
都の形も具体的です。中心の島を、水の輪と陸の輪が交互に取り囲む同心円。中央の島の直径は5スタディオン、いまの単位でおよそ0.9キロメートル。壁は掘り出した石で築かれ、外側から順に真鍮、錫、そしてオリハルコンで覆われていた※1。
ここまで細かく書いてあると、実在した都市の記録に読めてきます。ただ、この細かさこそがプラトンの筆の力だ、という見方が現在の古典学では主流です※4。
アトランティス人の特徴③ オリハルコンを掘り、象の歩く島に住んだ
アトランティス人の暮らしぶりで、いちばん有名なのがオリハルコンです。プラトンは「いまでは名前だけのものだが、当時は名前以上のものだった」と書き、黄金に次いで貴重な金属として、島の各地で掘り出されたと記しました※1※5。
そしてもう一つ、意外と知られていない記述があります。島には象がたくさんいた。プラトンはわざわざ「あらゆる動物に十分な餌があったので、最も大きく最も大食いのあの動物にも足りていた」と書き添えています※1。
この2つは、性質がまったく違う情報です。
- オリハルコン……プラトン以前のギリシア語文献にも出てくる語で、実在の合金(真鍮の一種)を指していたとする説が有力です※5。つまり当時の読者が知っていた金属を、伝説の島に持ち込んだ
- 象……ギリシア本土にはいない動物です。読者に「ここは遠い、ありえないほど豊かな場所だ」と感じさせる装置として置かれています
島の大きさについては「リビュア(北アフリカ)とアジアを合わせたより大きい」とあり、場所は「ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)の向こう」。そして最期は、激しい地震と洪水によって、たった一昼夜で海に沈んだと書かれています※2。
大陸が一昼夜で沈む地質学的な仕組みは、現在まで見つかっていません。大陸が沈んだとされる話をどう扱うかについては、ムー大陸はなぜ沈んだのかを扱った記事でも、同じ物差しで並べ直しました。オリハルコンのような「当時あるはずのない技術」の扱い方は、オーパーツの意味を整理した記事のほうが詳しく書いてあります。
原典そのものを読んでみたい人には、岸見一郎さんの訳で2篇をまとめたティマイオス/クリティアスがあります。この記事で引いた「富を重荷と考えた」「神の分け前が薄まった」のくだりは、どちらもこの本の後半に入っています。
アトランティス人の特徴とされる「金髪・超能力・第三の目」は原典にありません
ここからが本題です。ネット上で語られるアトランティス人の特徴は、誰が・いつ言い出したのかを追えるものがほとんどです。順番に並べると、きれいに時系列になります。
1882年 アトランティスを「実在」に引き戻した本
アメリカの元下院議員イグナティウス・ドネリーが『アトランティス——大洪水前の世界』を出しました。プラトンの寓話として扱われていた話を、歴史の記録として読み直す本です。世界中の文明の源をアトランティスに求めました。19世紀のアトランティス復活は、ほぼこの1冊から始まっています※9。
1888年 超能力と「第四根源人種」が足された
神智学協会の創立者ヘレナ・ブラヴァツキーが『シークレット・ドクトリン』を出し、アトランティス人を人類の「第四根源人種」と位置づけました。文明の絶頂は100万年前から90万年前で、滅んだ原因は超能力の危険な使用による内戦だった——と書いています※4。
いま語られる「アトランティス人は超能力を持っていた」は、プラトンではなく、ここが出どころです。ついでに書いておくと、ブラヴァツキー自身は、アトランティス人をオリーブ色の肌の人々だと書いていました※4。金髪碧眼ではありません。
1900年代〜1930年代 「金髪碧眼」が付け足された
アトランティス人を北方の超人とする説は、1900年前後のドイツのアリオゾフィー(人種主義的なオカルト思想)の中で広まりました。グイド・フォン・リストらが唱え、ツシェッチュ(1920年)とヴィルト(1928年)が「北方系アトランティス人」を語り、のちにナチスの公式教義に組み込まれていきます※4。
つまり「金髪碧眼のアトランティス人」は、古代の伝承ではありません。20世紀前半の政治的な主張として作られた像です。ここは事実関係として、はっきり書いておきたいところでした。
1940年代 クリスタルと「1968年の浮上」
アメリカの霊能者エドガー・ケイシーは、アトランティスについて繰り返し語り、多くの相談者を「アトランティス人の生まれ変わり」と診断しました。そして1960年代にアトランティスが再び浮上すると予言しています※4。
ここで、都市伝説として最もよくできた出来事が起こります。1968年9月2日、バハマのビミニ島沖の水深5.5メートルで、四角い石が一直線に並ぶ「ビミニロード」が見つかりました。全長0.8キロメートル。予言の年と、ぴたりと重なります※6。
ただし、その後の地質調査で、この石はビーチロック(浜辺の砂や貝殻が自然に固まってできる岩)と判明しています。角が丸く削れており、仮に加工の痕や文字があったとしても残らないほど侵食が進んでいる、というのが調査側の結論です※6。
アトランティス人の特徴を、証拠の強さで3階層に仕分けた
ここまで出てきた特徴を、裏付けの強さだけで3つの棚に分けます。「本当かどうか」ではなく、「何をもってそう言えるか」で分けた棚です。
棚A:原典にそう書いてある(出どころが1か所に特定できる)
- 富を重荷と考え、贅沢に酔わなかった。のちに強欲になった
- ポセイドンとクレイトーの子孫で、5組10人の双子の王が治めた
- オリハルコンを掘り、象のいる島に住んだ
- 5年ごと・6年ごとに集まり、棒と縄で牛を狩って誓いを立てた
注意すべきは、これが「アトランティス人が実在した証拠」ではないという点です。「プラトンがそう書いた」という事実の証拠にすぎません。ここを混ぜると、話が一気に崩れます。
棚B:後世の創作だが、言い出した人と年がはっきりしている
- 超能力を持っていた……1888年・ブラヴァツキー※4
- 第四根源人種だった……同上
- 金髪碧眼の北方人種だった……1900年代以降のドイツのアリオゾフィー※4
- クリスタルを動力にしていた、1960年代に浮上する……エドガー・ケイシー※4
棚C:出どころがたどれない
- 身長が3メートルあった
- 額に第三の目があった
- 反重力で石を浮かせていた
棚Cは、探しても最初の言及にたどり着けませんでした。「そう語られている」以上のことは、こちらでは書けませんでした【推測・確信度低】。
アトランティス人のモデルは実在した? ミノア文明とサントリーニ島の噴火
では、プラトンは何も見ずにこれを書いたのか。下敷きになった実際の出来事があったとする説は、いまも研究者のあいだで検討されています。最有力は、エーゲ海のテラ島(サントリーニ島)の噴火です※7。
この噴火は紀元前1600年ごろ、火山爆発指数(VEI)7という規模で起きました。人類史上でも最大級の噴火のひとつです。テラ島のアクロティリというミノア文明の街は火山灰に埋もれ、地震と津波が近隣の島々とクレタ島の海岸を襲いました※7。
「栄えた海の民の島が、地震と洪水で一気に消えた」。この骨格は、プラトンの記述とよく合います。エジプトの記録が、伝聞を重ねながらギリシアに届いた可能性を指摘する研究者もいます※4。
ただし、慎重に書いておきたい点が3つあります。
- 年代が合いません。プラトンは「9000年前」と書きましたが、テラ島の噴火はプラトンの約1200年前です
- 場所が合いません。テラ島は地中海の内側、プラトンのアトランティスはヘラクレスの柱の外側です
- 噴火の年代そのものが確定していません。この噴火の正確な年は、考古学者と火山学者のあいだで数十年にわたって議論が続いており、決着していません※7
現在の文献学者と古典学者の見解としては、アトランティスの物語は創作であるという点でほぼ一致しています。議論が残っているのは「何に着想を得たか」のほうです※4。プラトンが同時代の出来事——紀元前415年から413年のアテナイのシケリア遠征の失敗や、紀元前373年のヘリケの町の水没——から着想を得たとする説もあります※4。
アトランティス人の特徴まとめ
最後に、この記事で分かったことを短く並べます。
- アトランティス人の特徴を伝える原典は、プラトンの『ティマイオス』『クリティアス』の2本だけ
- 原典が書いたのは性格。富を重荷と考え、やがて豊かさに耐えられず強欲になった
- 血筋はポセイドンの子孫。5組10人の双子の王が、5年ごと・6年ごとに集まって治めた
- 金髪碧眼・超能力・第三の目は、1882年から1930年代にかけて後から足されたもの
- 下敷きになった出来事としては、紀元前1600年ごろのテラ島噴火が最有力。ただし年代も場所も合っていない
私事を一つ書きます。以前、投資用不動産の営業を20社から聞いたことがありました。20社目のころには、同じ説明が完全に「知っている事実」になっていたんです。自分で数字を組み直してみて、ようやく気づきました。聞いた回数は増えていたけれど、確かめた事実は1件も増えていなかった。結局、その話には乗りませんでした。
同じことを何度も見聞きすると、それが正しく感じられる。この働きは真実性の錯覚という名前で、心理学の実験で繰り返し確認されています※8。アトランティス人の金髪碧眼も、おそらくこの経路で広まりました。誰かが嘘をついたというより、百年かけて何度も反復されたのだと思います。
19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパのオカルト思想がどう組み立てられていったのかは、オカルティズム 非理性のヨーロッパが通史として扱っています。この記事で触れた神智学とアリオゾフィーの流れも、その一部として位置づけられていました。似た構造の話を証拠の強さで並べ直したものとしては、陰謀論を一覧にして仕分けた記事も置いてあります。
アトランティス人の特徴を調べていて、いちばん面白かったのはここでした。プラトンが本当に書きたかったのは、失われた超文明ではなかった。豊かになった国が、豊かさそのものによって駄目になっていく話です。2400年前に書かれた警告が、金髪碧眼と第三の目に埋もれて見えなくなっていた。そのことのほうが、よほど都市伝説らしい出来事に思えます。
出典
- ※1 Critias(プラトン著/Benjamin Jowett 英訳・The Internet Classics Archive、マサチューセッツ工科大学)
- ※2 Timaeus(プラトン著/Benjamin Jowett 英訳・The Internet Classics Archive、マサチューセッツ工科大学)
- ※3 Critias (dialogue)(英語版ウィキペディア)
- ※4 Atlantis(英語版ウィキペディア)
- ※5 Orichalcum(英語版ウィキペディア)
- ※6 Bimini Road(英語版ウィキペディア)
- ※7 Minoan eruption(英語版ウィキペディア)
- ※8 Illusory truth effect(英語版ウィキペディア)
- ※9 Atlantis: The Antediluvian World(英語版ウィキペディア)
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