都市伝説の怖いランキング|1位は「実際に社会が動いた話」でした
都市伝説の怖いランキングを7つ作りました。1位は口裂け女です。作り話としての完成度ではなく、現実にパトカーが出動し、集団下校が行われ、逮捕者まで出た。ここまで社会を動かした都市伝説は、ほかにありません※1。
怖い都市伝説をまとめたランキングは、たいてい「なんとなく怖い順」で並んでいます。並べた人の背筋が寒くなった順、と言い換えてもいい。それはそれで楽しいのですが、読み終わったあとに残るものが少ない。
そこで今回は、3つの物差しを先に決めて、そこから順位をつけました。逃げ場のなさ、日常への侵入度、そして現実に何が起きたか。この3つです。ついでに、それぞれの話がいつ・どこで生まれたのかも書き添えます。7話のうち5話は、最初の書き込みの日付まで分かっています。
- 7位 くねくね(2003年頃・ネット発)
- 6位 テケテケ(発生時期は不明)
- 5位 コトリバコ(2005年6月6日・ネット発)
- 4位 八尺様(2008年8月26日・ネット発)
- 3位 猿夢(2000年8月2日・ネット発)
- 2位 きさらぎ駅(2004年1月8日・ネット発)
- 1位 口裂け女(1978年12月・岐阜県)
都市伝説の怖さランキングは、何を物差しにしたのか
順位は3つの軸で決めました。逃げ場のなさ、日常への侵入度、現実に起きたことの3つです。それぞれ5点満点で、合計15点満点。配点はこの記事の主観ですが、何を見て点をつけたかは全部書きます。納得できない順位があれば、どの軸の点を動かせば入れ替わるかが分かるはずです。
物差し1:逃げ場のなさ
怖さの核心はここにあります。走れば逃げられる怪異と、どこへ行っても追いつかれる怪異では、心臓の鳴り方が違う。閉じ込められた電車の中、たどり着けない駅、眠るたびに続く夢。この記事で上位に来た話は、いずれも「そこから出る方法が書かれていない」という共通点を持っています。
物差し2:日常への侵入度
山奥の廃屋に出るものより、通学路の曲がり角に出るもののほうが怖い。理由は単純で、明日も通るからです。学校、通勤電車、自宅の寝室。読んだあとに必ず戻らなければならない場所が舞台になっているほど、点が高くなります。
物差し3:現実に何が起きたか
ここがこの記事の独自の軸です。話の中身ではなく、その話のせいで現実世界に何が起きたかを見ます。新聞が報じたか。警察が動いたか。鉄道会社に問い合わせが来たか。ここに数字が残っている話は、それだけ多くの人が本気にしたということです。作り話としての怖さと、社会に効いた怖さは別物で、この記事は後者を重く見ました。
【7位〜5位】都市伝説の怖い話ランキング|姿かたちが怖いもの
下位3話は、怪異の姿そのものが怖い型です。見た瞬間に何かが起きる。逃げ場のなさで言えば中程度で、日常への侵入も限定的。ただし5位のコトリバコだけは、現実への影響という点で下位に置けない事情があります。
7位 くねくね(合計6点)
田んぼの向こうで、白いものが人間にはできない動き方をしている。正体を理解した者は正気を失う、という話です。2003年頃からインターネット上で広まりました※4。
この話が珍しいのは、起源があいまいになりがちなネット怪談としては例外的に、最初の発信源が特定されているという点です※4。つまり「昔から伝わる話」ではなく、いつ誰が書いたかが追える創作だと分かっている。それでも怖いのは、「見てはいけない」という禁止が、読者に想像の余地をまるごと預けてくるからでしょう。
点数は、逃げ場のなさ3点(見なければよい)、日常への侵入2点(田園地帯が舞台)、現実への影響1点で合計6点としました。
6位 テケテケ(合計7点)
下半身を失った姿で、両腕を使って移動する。そのときに鳴る音が名前になりました※7。カシマさんと同じものとして語られることもあります。
初出の時期がはっきりしないのが、この話の不気味さを一段上げています。ネット発の怪談は日付を追えますが、テケテケはいつ生まれたのかが分からない。学校の怪談として口から口へ伝わってきた型の話で、バリエーションもいくつもあります※7。追いかけてくる速さが語られる点で、逃げ場のなさは7位より上です。
逃げ場のなさ3点、日常への侵入3点(駅や学校が舞台になる)、現実への影響1点で7点。
5位 コトリバコ(合計8点)
2005年6月6日、匿名掲示板のオカルト板に投稿された怪談です※5。触れた女性と子どもに害をなす呪具が登場します。
ここは先に線を引いておきます。これは創作です。作中には、苦しい立場に置かれた地域の人々がその箱を作ったという設定が出てきますが、これは物語の中だけの話で、実在の地域や、そこに暮らす人々を指すものではありません※5。読み物として楽しむぶんには構いませんが、この設定を現実の誰かに当てはめるのは筋が違います。
それでもこの話を5位に置いたのは、後続への影響が大きいからです。集落に隠された決まりごとと謎を描く、いわゆる民俗学ホラーというジャンルが日本で盛り上がるきっかけになった作品と評価されています※5。4位の八尺様も、その流れの中から生まれました。
逃げ場のなさ2点、日常への侵入2点、現実への影響4点(ジャンルを1つ作った)で8点。
【4位・3位】都市伝説で本当に怖いのは、逃げ場がないときです
ここから上位です。4位と3位は、どちらも「そこから出られない」という一点で怖い。怪異の姿が怖いのではなく、自分の側に打つ手がないという状況そのものが怖い型に変わります。
4位 八尺様(合計9点)
2008年8月26日、匿名掲示板のオカルト板に投稿されました※6。身長が8尺、およそ240センチある白いワンピース姿の女性で、「ぽぽぽ」という声を出し、目をつけた子どもを連れ去るとされます※6。
怖さの設計がよくできています。まず数字が具体的です。240センチという高さは、大人の目線よりはるかに上から見下ろされることを意味します。次に、この話では家の中にいても安全ではない。逃げるのではなく、決まった手順を踏んで身を守るという展開になる。打つ手はあるが、間違えたら終わり、という状態が続きます。
逃げ場のなさ4点、日常への侵入3点、現実への影響2点(後続作品が多い)で9点。
3位 猿夢(合計10点)
2000年8月2日、匿名掲示板のオカルト板に立った初代スレッドに書き込まれた話です※3。投稿者は自分を「私」としか書いておらず、書き込みの中に性別を特定できる情報は入っていません※3。
舞台は夢の中の電車です。次に何が起こるかが先にアナウンスされ、そのとおりに進む。逃げ場のなさで言えば、この記事の7話の中で最上位です。目が覚めても終わらず、眠れば続きが始まる。走って逃げるという選択肢が、最初から用意されていません。
この話についてはなぜ同じ悪夢を見るのかを脳の側から調べた記事を別に書いています。あわせて読むと、この怖さがどこから来ているのかが少し見えてきます。
逃げ場のなさ5点、日常への侵入4点(眠るという毎日の行為が舞台)、現実への影響1点で10点。
逃げ場がないというのは、こういう感覚だと思う
ここで私事を少し。事故に遭って救急車を呼んだことがあります。埼玉県での話です。頭を打っていたため、受け入れ先がなかなか決まらず、救急隊の方が1時間近く、あちこちの病院に電話をかけ続けていました。
救急車の中で、私はその電話の音をただ聞いていました。痛いことより、自分にできることが1つもないことのほうがつらかった。行き先が決まらない乗り物の中にいて、降りることも選べない。あとから聞けば、頭を打った場合は診察時に異常がなくても数日後に急変することがあり、慎重にならざるを得ない事情があるのだそうです。理屈は分かります。それでも、あの1時間の感覚は理屈とは別のところに残りました。
猿夢やきさらぎ駅が長く語り継がれている理由は、たぶんここです。怪物が怖いのではない。乗り物の中にいて、自分では降りられないという状態を、多くの人がどこかで知っている。だから話が体に入ってくる。
【2位】都市伝説の怖いランキング上位|きさらぎ駅は現実の駅を動かした
きさらぎ駅は2位です。逃げ場のなさは猿夢と並んで最高ですが、現実世界への影響がけた違いでした。実在の鉄道会社に問い合わせが来て、映画になり、記念乗車券が売り切れています。
最初に語られたのは2004年1月8日の深夜でした※2。匿名掲示板の実況形式のスレッドに、「はすみ」と名乗る人物が、電車がいつまでも停まらないという相談を書き込んだのが始まりです※2。新浜松駅から乗った電車が停まらず、乗客は全員眠っている。ようやく着いたのが「きさらぎ駅」という見知らぬ無人駅だった、という筋です。
やりとりは翌日未明まで実況で続きました※2。実在しない「伊佐貫」というトンネルを通ったこと、遠くから場違いな祭囃子が聞こえたこと、声をかけてきた片足の老人が急に姿を消したこと。最寄り駅を尋ねたら、遠く離れた比奈駅だと言われた。そして通りかかった車に乗せてもらったところで書き込みが途絶えます※2。
きさらぎ駅が現実に起こしたこと
ここからが2位の理由です。数字を並べます。
- 舞台とされた遠州鉄道の本社に、実際に問い合わせが寄せられるようになった※2
- 2020年のGoogleの都道府県別検索ランキングで、静岡県部門の1位が「きさらぎ駅」だった※2
- 2022年に映画『きさらぎ駅』が公開された※2
- 同じ2022年、遠州鉄道が発売した記念乗車券は開始から1時間あまりで完売した※2
- 2014年には、何者かがGoogleマップに「きさらぎ駅」を登録し、架空のルート検索ができる状態になった※2
2011年以降にはSNSで目撃談が相次ぎ、「月の宮駅」「やみ駅」「かたす駅」といった類似の駅の話も生まれました※2。台湾や香港でも「如月車站」としてよく知られています※2。1本の書き込みが、20年かけて実在の鉄道会社の商品になった。これはほかの6話には起きていないことです。
逃げ場のなさ5点、日常への侵入4点(毎日乗る電車)、現実への影響4点で13点。
【1位】都市伝説で本当に怖い口裂け女|パトカーが出て集団下校になった
1位は口裂け女です。理由は1つ。この話だけが、現実の社会を実際に動かしました。子どもたちが恐れたというレベルではなく、警察車両が出動し、地域が集団下校を始め、逮捕者まで出ています※1。
話そのものは単純です。口元を隠すほど大きなマスクをした若い女性が、学校帰りの子どもに「私、綺麗?」と尋ねる。答え方によって結末が変わる、というものです※1。
口裂け女は、いつどこで生まれたのか
発生時期はかなり細かく分かっています。1978年12月初め、岐阜県で噂が起こりました※1。報道に初めて登場したのは1979年1月26日の岐阜日日新聞とされ、続いて『週刊朝日』1979年6月29日号が記事を掲載しています※1。その週刊誌の記事には、1978年12月初めに岐阜県本巣郡真正町で、母屋から離れたトイレに立った女性が口裂け女を見て腰を抜かした、という噂が紹介されていました※1。
ルーツについては複数の説があります。宝暦4年(1754年)の郡上一揆に結びつける説、明治中期に滋賀県信楽の女性が山道を越えるために独特の身なりをしていたという説、岐阜県で夜道の外出を怖がらせるために親が語った話が元だという説※1。【推測・確信度低】どれか1つが正解だと断定できる材料はありません。複数の言い伝えが混ざって形になった、と考えるのが無理のないところです。
1979年に何が起きたか
ここが1位の根拠です。
- 福島県郡山市と神奈川県平塚市で、パトカーが出動する騒ぎになった※1
- 北海道釧路市と埼玉県新座市では、集団下校が行われた※1
- 1979年6月21日、姫路市で25歳の女性が口裂け女の格好をして刃物を持ち歩き、銃刀法違反の容疑で逮捕された※1
- 1979年6月ごろまでに、噂はほぼ全国に広がった※1
- 2004年には韓国でも流行した※1
そして終わり方も記録に残っています。1979年8月、それまで全国を席巻していた噂は急速に静まりました。夏休みに入り、子ども同士の口コミが途絶えたためとされています※1。
この最後の1行が、個人的にはいちばん怖い。怪異が去ったのではなく、話す相手がいなくなったから消えた。つまりこの都市伝説の正体は、口から口へ渡る経路そのものだったということです。1979年の夏休みは、いまで言えばサーバーが止まった状態でした。
逃げ場のなさ4点、日常への侵入5点(通学路そのもの)、現実への影響5点で14点。堂々の1位です。
なぜ都市伝説は、怖いランキングの上位ほど速く広まるのか
ここまで7話を並べて見えてくるのは、上位ほど「思わず人に話したくなる要素」を持っているという点です。これは感覚の話ではなく、実際に研究されています。
気持ち悪さが強い話ほど、人に伝えられる
2001年12月、『Journal of Personality and Social Psychology』に「Emotional selection in memes: The case of urban legends」という論文が載りました。著者はChip Heath、Chris Bell、Emily Sternbergの3名です※8。都市伝説を題材に、どんな話が選ばれて広まるのかを調べた研究です。
この分野の古典として知られるのが、アメリカの民俗学者ヤン・ハロルド・ブルンヴァンの仕事です。日本語では消えるヒッチハイカー アメリカの都市伝説とその意味として読めます。「友達の友達が体験した」という形で話が伝わっていく仕組みを扱った本で、この記事で言えば物差し3、つまり話が現実にどう作用するかを正面から論じています。
何度も聞いた話は、本当らしく感じられる
もう1つ効いているのが、繰り返し触れた情報を本当だと感じやすくなる傾向です。心理学では錯誤的真実効果(illusory truth effect)と呼ばれます※9。1977年の研究で報告されて以来、繰り返し確かめられてきました※9。
口裂け女が1979年の半年で全国に広がったのは、まさにこれでしょう。教室で3回聞けば、それは「噂」ではなく「みんなが知っていること」に変わります。内容が確かめられたわけではなく、聞いた回数が増えただけなのですが、感じ方のほうが先に動きます。
眠っているときに動けない、という体験は実在する
猿夢や八尺様の怖さを支えているのが、金縛りの実体験です。医学では睡眠麻痺(sleep paralysis)と呼ばれ、眠りに入るときや目覚めるときに、意識はあるのに体が動かせない状態を指します※10。このとき、誰かがいるという感覚や、胸の圧迫感をともなうことが知られています※10。
つまり、夢の中で動けず、何かが近づいてくるという筋書きは、多くの人が実際に経験している感覚をなぞっている。だから話として入ってきやすい。日本の言い伝えと生活習慣の関係については、民俗学者の常光徹によるうわさと俗信 民俗学の手帖からが扱っています。噂が根づく土壌のほうから見た一冊です。
都市伝説の怖い話で、創作と事実を見分ける3つの目印
ここまでの整理をふまえて、怖い都市伝説を読むときに創作と事実を分ける目印を3つ挙げます。今回の7話を並べながら、実際に使ったものです。
- 初出の日付が特定できるか。猿夢は2000年8月2日、きさらぎ駅は2004年1月8日、コトリバコは2005年6月6日、八尺様は2008年8月26日と分かっています※2※3※5※6。日付が1日単位で分かる話は、そこで誰かが書いたということです
- 報道や公的な記録が残っているか。口裂け女には新聞記事と週刊誌記事、警察の対応という外部の記録があります※1。ここが1位と2位以下を分けた点です
- 「〜と言われています」で終わっていないか。誰が言ったのかが書かれていない文は、たいてい確かめられていません。この記事でも、ルーツの説明は【推測・確信度低】と明記しました
この見分け方は、怖い話以外にも効きます。同じやり方で陰謀論を証拠の強さ順に並べた記事や、宇宙人の写真を3階層に仕分けた記事も書きました。怖さを減らさずに、確かさだけを上げるのがこのブログのやり方です。
都市伝説の怖いランキングまとめ
7話を並べ直すと、こうなります。
- 1位 口裂け女 14点|1978年12月に岐阜県で発生。パトカー出動、集団下校、逮捕者。1979年8月に夏休みで沈静化※1
- 2位 きさらぎ駅 13点|2004年1月8日深夜の書き込み。映画化、記念乗車券が1時間あまりで完売、静岡県の検索1位※2
- 3位 猿夢 10点|2000年8月2日。眠るたびに続くという逃げ場のなさは7話中最高※3
- 4位 八尺様 9点|2008年8月26日。身長約240センチ。家の中も安全ではない※6
- 5位 コトリバコ 8点|2005年6月6日。民俗学ホラーというジャンルの起点になった創作※5
- 6位 テケテケ 7点|初出不明。追いかけてくる速さが語られる※7
- 7位 くねくね 6点|2003年頃。ネット怪談としては珍しく発信源が特定されている※4
並べてみて分かったのは、本当に怖い都市伝説は、話の中身ではなく人の動きで決まるということです。口裂け女が1位なのは、怪異として最強だからではありません。1979年の日本で、大人が本気で子どもを守ろうとしたという事実が残っているからです。
怖い話は、聞いた人が次の人に話した瞬間に完成します。その意味では、この記事を読んでいるあなたも、すでに経路の一部です。ほかの怖い話も読みたい方は、かけると繋がるとされる電話番号の話や、アンパンマンの都市伝説を古代神話と並べた記事もどうぞ。
出典
- ※1 口裂け女(日本語版ウィキペディア/記事内で岐阜日日新聞 1979年1月26日、『週刊朝日』1979年6月29日号を出典として挙げています)
- ※2 きさらぎ駅(日本語版ウィキペディア)
- ※3 猿夢(日本語版ウィキペディア)
- ※4 くねくね(日本語版ウィキペディア)
- ※5 コトリバコ(日本語版ウィキペディア)
- ※6 八尺様(日本語版ウィキペディア)
- ※7 テケテケ(日本語版ウィキペディア)
- ※8 Emotional selection in memes: The case of urban legends.(Chip Heath / Chris Bell / Emily Sternberg、Journal of Personality and Social Psychology、2001年12月・Crossref)
- ※9 Illusory truth effect(英語版ウィキペディア)
- ※10 Sleep paralysis(英語版ウィキペディア)
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